なぜか俺は将棋の「歩」に転生していた!地面は81×81マスに区切られ眼前には”あの駒”に刻まれた無数の漢字どもがこちらをにらんでいる!
俺「何が起こってるんだ!?俺そんなに将棋詳しくないぞ」状況がつかめず戸惑っていると自軍の方角から力強い声が聞こえてきた
「対局開始!!」
俺はその声を合図にわけもわからず敵軍めがけて突っ込んだ
「何だかわからんがとにかく突っ込めええええ!!」一心不乱に突き進む俺
将棋といえどもここは戦場だ、殺らなければ…殺られる…!
敵軍は目とひとマスの先、ここまで来たらもう覚悟を決めるしかない
でも大丈夫だ、俺には大勢の仲間(駒)がいるんだきっと勝てる…あれ大勢?
そのとき俺は違和感に気づいた。
足音…いや駒音があまりにも少なすぎるのだ、嫌な予感がして振り返ってみると案の定だれひとりとしてついてきている者は居なかった!
「なんで誰も突撃しないんだよ!」思わず突っ込むとひとりの歩兵が怒声を上げた
「お前が勝手に進むから俺ら進めねーんだよ」
はっとした。この世界は将棋なのだ、誰かが動けばほかの駒は動けなくなる。俺はなぜこんな簡単なことに気がつかなかったのだろう
逃げなければ。俺(歩兵)ひとりが戦ったところで勝てる訳がない
しかし俺の足(?)は動かない。そう俺は歩兵、歩兵に退路など残されてはいないのだ
「しまった!!」
王手飛車取り、いや歩兵手歩兵取りか……諦めかけたその時、突如盤面に謎の機械音声が響き渡った
[”待った”を承知しました、一手戻します。残り2]
音声が鳴り終わると同時に俺の足(?)は自然と自軍の方へと歩き出す。
そうかさっきの”しまった”が待ったに聞こえたのか、とにかく助かった…
だが安心するのはまだ早い、一手戻っただけで追い詰められていることに変わりはないのだ。
ひとマス開けて目の前には敵の歩兵、もちろん近づくわけには行かないがここから動かなければとりあえず安全だ。ちょっと余裕ができたので目の前の敵兵と会話を試みる
俺「もしかしてあなたも転生してきたんですか?」
敵「一歩踏み出せ殺してやる」
ダメだ話が通じない、俺以外に転生者はいないようだ
しばらくして周りに駒が増えてきた、味方の角行さんが物凄いスピードで敵を殲滅しているのが見える
敵も負けじと飛車で応戦している、将棋は詳しくないのでどちらが優勢なのかはわからないがあの角ばった駒たちが少しカッコよく感じた。
目の前の敵「殺す、殺してやる」
にしても気まずい、もう少し話の通じる奴はいないのか
戦場で話し相手を探すのも変な話だが将棋って意外と長くて暇なのだ。戦況わからないし。
せめて話の通じる駒がいれば
そうだ持ち駒があった!角行さんが倒した歩兵を話相手として連れてこよう
まあ歩兵ひとり減ったところで戦況は変わらないだろうし大丈夫だろう。
「持ち駒の歩兵をひとりここに連れて来てくれ!」俺は後ろのマスを指差して叫んだ。
直後空から歩兵着盤。そしてまた鳴り響く機械音声
[”二歩”を検知、自動的に待ったを使用します。残り1]
あ。
俺「待ってくれ、今のは独り言で本当に呼ぶ気はなかったんだ!」
[”待った”を承知しました、一手戻します。残り0]
あ。
自軍から感じる白い視線、角行さん鬼の形相。
角行「歩兵風情が余計なことを…」
余計に気まずくなってしまった…なんとか場を和ませなければ。
俺「まーまー角行さん怒らないでください!ほらほら笑う門には福来るですよ!角だけに」
俺「もっと角が取れた駒になりましょう!角だけに」
直後俺は角行さんの物凄いタックルを受けて気を失ってしまった
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